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多くの日本人は、自分のことを『照れ屋』や『あがり症』だと思っています。異性に対して、目上の人や権威のある人に対して、大勢の人の前でのスピーチの時・・・など、1度や2度は照れたり緊張したりする経験があるでしょう。
この時の緊張は『社会不安』と呼ばれ、特に治療を必要とするものではありません。
しかし、もし、照れや緊張・不安が強く、あなたがそれを耐え難いと思っている場合、
そして、そのせいで日常生活や対人関係において支障を来たしてしまうような場合、
それは、『社会不安障害 (SAD)』であるかもしれません。
医学的に社会不安障害の診断基準をまとめると、次のようになります。
@ 人前での不安を感じるか否か
A その時、反応的な身体症状(動悸・発汗・震え・赤面など)があるか否か
B そのような場面を避けようと、回避的な行動をとるか否か
C 回避行動、またはそのような場面を耐えがたい苦痛と感じているか否か
今まで、そのような『あがり症』は性格の問題で、歳をとったり経験を積むことによって軽くなっていくもの、とされてきました。
しかし近年、 年齢を重ねてもあがり症状が軽減することは少ないこと
そればかりか、後述する合併症を併発する可能性を高めること
そして、社会不安障害は治療が可能な病気であることが明らかになりました。
社会不安障害に苦しむ方からは、「異性に話しかけられない。恋人が見つけられない」「スピーチをしなければならなくなるので、昇進を断った」「進学をあきらめた」などの声もきかれます。
社会不安障害がもたらす影響は、人生をも左右しかねない、非常に大きなものなのです。


社会不安障害の方は、さまざまな場面で、通常よりも強い緊張や不安を感じます。
緊張や不安を感じる場面は千差万別、その方によって異なります。
緊張・不安を感じる場面 |
スピーチ恐怖 |
人前でスピーチをするような場面で強い不安・緊張を感じ、苦痛である |
面接恐怖 |
面接などで頭が混乱し、しどろもどろになり適切な応答が出来ない |
試験恐怖 |
受験生など試験の場面で混乱し本来の力を発揮出来ない、頻回にトイレに行きたくなったり便意を感じたりする |
電話恐怖 |
人前で電話に出る・電話をかけることに強い不安・緊張を感じ、苦痛である |
視線恐怖 |
自分の行動を観察されているような気がして落ち着かず、苦痛である |
対人恐怖 |
「自分はどのように思われているのか」が気になり人と接することに不安・緊張を感じ、苦痛である |
会食(外食)恐怖 |
食事を人に見られていると緊張して食べ物が喉を通らない。会食や外食の場面が苦痛である |
異性恐怖 |
同性の前では緊張はしないが、異性だと不安・緊張を感じる |
赤面恐怖 |
異性や目上の人の前、注目されている場面で赤面が気になり、苦痛を感じてしまう |
発汗恐怖 |
緊張のあまり多量に汗をかいてしまい、苦痛である |
書痙(しょけい) |
人前で文字を書くときに手が震え、不安・緊張を感じ、苦痛である |
振戦恐怖 |
人前でのお茶出しや人前での細かい作業などで手が震えてしまい、そのような場面が苦痛である |
排尿恐怖 |
公衆トイレなどで誰かがいると緊張して排尿が困難になり、苦痛を感じている |
腹鳴恐怖 |
静かな場所でお腹が鳴るのではないかと気になり苦痛を感じてしまう |
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このようは場面に直面すると、社会不安障害の人は次のような身体症状が起こりやすくなります。
不安・緊張を感じる場面でおこる、身体症状 |
心臓の鼓動が早まる |
手や足、声などが震える |
表情が硬直する |
頭の中が真っ白になる |
顔が青ざめる・顔が紅潮する |
上手く言葉が出てこなくなる |
呼吸が速くなる |
胸がつかえる |
汗をかく |
吐き気がする |
喉が渇く |
腹部不快感 |
めまいがする |
トイレが近くなる |
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社会不安障害の基本的な症状は、社交上、または人前で何か行動をしたり演技をするときに感じる、明らかで持続的な恐怖感です。それは、通常の人が感じる不安・緊張よりも一桁も二桁も大きい不安・緊張なのです。
ご本人は、きまりの悪い思いをすることを心配し、他人に自分の緊張や不安・混乱を気付かれることを恐れます。
また、緊張する場面での身体症状に他人が気付くのではないかと心配します。
更に、「予期不安」と言って、「また次の機会にひどく緊張するのではないだろうか」「今度の発表で緊張するあまり失敗してしまうのではないだろうか」という今後を予期するような不安が起こります。
そうなると、そのような不安・緊張を感じる場面を恐れるようになり、そのような場面を避けるようになります。
結果として、これらの恐怖感や回避行動が、出勤や通学、昇進、転職などを、よりし辛いものとしてしまい、日常生活に大きな支障を来たしてしまいます。

社会不安障害はなぜ起こるのでしょう。
一版的に、心理・環境的要因、遺伝的要因、生物学的要因などの様々な要因が複雑に絡み合って生じるとされています。
◆心理・環境的要因
人間は緊張すれば自律神経のうちの交感神経が高まるようなメカニズムを持っています。交感神経というのは、動物が臨戦態勢についたときの生理的状況です。
顔が青ざめる、瞳孔が広がる、心臓の鼓動が高まる、呼吸が速くなる、胃腸の働きが低下する、胸がつかえる、汗をかく、体毛が逆立つ、細かくふるえる・・・これが交感神経が高まったときの体の変化です。
・・・なんだか社会不安障害の方が緊張場面に遭遇したときの身体症状に似ていますね。
社会不安障害の方の中には、このような交感神経の身体症状が出やすい体質の方がおられるようです。
このような身体症状を意識してしまうと、脳は「自分は緊張しているんだ」と認識し、それにより更に緊張が高まり、ますます身体症状が活発になる、という悪循環が生じます。
また、人前で馬鹿にされたり恥をかいた出来事が社会不安障害のキッカケとなることもあります。
一度、恥をかいたという出来事を経験してしまうと、人は“恥をかかされた時と似た状況に出ると恐怖が生じる”という「条件づけ」が成り立ってしまうことがあるのです。
社会不安障害で悩む方のうち、60%の方は、このような“あるキッカケ(不愉快な出来事)”を契機に発病してしまったという研究もあります。
更に、“他人が恥をかいている状況を見て自分も恐怖と感じてしまう”場合もあります。
例えば、上司にひどく叱責されている同僚を見た場合、今度は自分が上司に報告をする場面でひどく緊張してしまうような場合です。
人間は周りを見ながら学習していく生き物ですから、このような現象にも頷けます。
◆遺伝的要因 −必ずしもはっきりとした遺伝病というわけではありません−
全般型の社会不安障害の方のご家族(両親・兄弟姉妹・子ども)を念入りに調査すると、16%の方に社会不安障害が見つかったという研究があります。
男性・女性に差はなく、親よりも兄弟姉妹に発症率が高いようです。
しかし、社会不安障害がはっきりとした遺伝病であるとは決していえません。
社会不安障害が見られないご家族の中でも5%の人が社会不安障害にかかっています。
この事実は、社会不安障害になる原因は遺伝的な要素も一役あるけれど、さらに、育ちや社会環境の影響も大きく関係している、ということを意味しています。
◆生物学的要因 −脳内のメカニズム−
人間の脳には、大脳を刺激させ、覚醒させる役目を持った部分があります。この部分は、情報が大脳に入る前に情報(刺激)の強さを調節します。
刺激の強さを調節する脳内ホルモンが、ドパミンとセロトニンです。
社会不安障害の方の場合、このドパミンとセロトニンが上手く作用せず、情報をうまく処理しきれずに刺激の強いまま大脳に送ってしまうと推定されています。その結果、大脳の神経細胞を過剰に興奮させてしまい、精神的緊張・不安状態を作ってしまうのです。
いわば、『脳内が不安や緊張を感じやすい体質になってしまっている = 脳内の不安体質が高い』といえるでしょう。


−一概には言えませんが、多く見られる性格というのはあります−
◆ 人間関係に敏感で感受性が高い
◆ 周囲と上手く付き合っていきたいと思い、周りの人に対して過剰に気を遣ってしまう
◆ 自分の能力に自信がなく、劣等感を持ちやすい
◆ 自分に対しての評価が低く、ドジを踏みやすいと思い込んでしまっている
このような特徴は、ますます不安・緊張状態を作りやすくしてしまいます。


社会不安障害は、他の精神的な病気を併発しやすい病気です。“社会不安障害を発病すると他の精神疾患を併発する割合が70%を超える”という報告もあります。
特に、うつ病・パニック障害・アルコール依存症などは併発率が高く、注意が必要です。
例えば、あがり症(社会不安障害)のために人前での発表がたいへん苦痛で仕方がないAさんがいたとします。
Aさんは、会議でプレゼンテーションをしなくてはならず、その事が気になって仕方ありません。いつも頭の隅に発表のことがあり、仕事に集中しきれず、ミスも増えてきました。会議本番では強い不安・緊張のために上手に発表できず、上司から指導をうけてしまいました。Aさんは、自分の能力に自信がなくなり、深く悩み、落ち込むようになりました。夜も眠りが浅く、仕事もはかどりません。ますます“自分はダメな人間なのではないか”と思い悩むようになりました(抑うつ症状)。
そんな時、仕事で大きなミスをしてしまい、上司から強い叱責を受けました。自信も無くなっていたAさんは、状況に冷静に対処できず、その場にいても立ってもいられなくなりました。震えが止まらず、呼吸も苦しくなり、慌ててトイレに駆け込みます(パニック状態)。
同僚の助けもあり、その時は何とか事なきを得ましたが、Aさんは「このままではいけない、何とかしなくては」と強く思います。
次のプレゼンテーションのとき、Aさんは“気を大きく持てば緊張が軽くなるのでは”とアルコールを飲み、会議に臨みました。少々意識がポワーッとし、前回の時よりは多少マシに発表することができたため、以来Aさんは緊張する場面で飲酒をするようになりました(アルコール依存症の入り口)。
いかかでしょう。Aさんは何とかしなくては、と一生懸命に努力しているのですが、社会不安障害のために、抑うつ的になってしまったり、昼間から飲酒してしまったり、たいへん苦しんでいる様子です。このまま社会不安障害を治療せず、放置してしまっていたら、うつ病かパニック障害、もしくはアルコール依存症になってしまう可能性がお分かりになると思います。
社会不安障害は、治療可能な病気です。性格のせいでも気の持ちようでもありません。
症状に心当たりのある方は「これは治療可能な病気である」と認識して、早めに専門医にご相談ください。


社会不安障害には、他の病気と紛らわしいケースがあります。
◆ 甲状腺機能亢進症
バセドウ病とも言われます。喉もとにある「甲状腺」という臓器から分泌されるホルモンが多くなることで、動悸や震え、発汗が起こりやすくなります。緊張する場面ではそのような症状が強くなるため、社会不安障害と思い込まれやすい病気の一つです。社会不安障害だと思っていたら、甲状腺機能亢進症で、甲状腺の治療をしたら人前でもあがらなくなった、という事例もあります。血液検査などで判別できますので、一度専門医におたずねください。
◆ 本態性振戦
ずっと同じ姿勢をとっていると、手や首に比較的早い震えが出現する病気です。コップを持つ手が震えたり、箸を持つ手が震えたり、文字を書く手が震えたりします。人前で意識すればするほど震えはひどくなるので、社会不安障害と間違われやすい病気です。家族内に同じような症状を持つ人がいる場合も多いのが特徴です。本態性振戦には本態性振戦専用のお薬があります。気になるようであれば専門医にお気軽におたずねください。
◆ パーキンソン病
パーキンソン病は、手や声の震え、体の硬直、顔のこわばり、手足の硬直、多汗などの症状が社会不安障害と似ていることから、見分けの難しい病気です。特にこのような症状は、パーキンソン病でも、緊張した場面でひどくなります。パーキンソン病は高齢者に多い病気ですが、専門医の鑑別を受けてください。

◎ 薬物療法 −お薬で治療を行います−
薬物療法で期待される効果は、
不安感・緊張感・恐怖感を解消したり減らしたりすること、
予期不安を解消したり減らしたりすること、
緊張する場面を回避してしまう行動を減らすこと、
自律神経系の症状を解消したり減らしたりすること、 などです。 |
薬物療法の利点は、お薬を飲み忘れなければ、あまり努力することなく症状が改善していくことでしょう。治療効果も心理療法などと比べて比較的早く現れます。
当クリニックでは、社会不安障害の治療薬として、主に以下のお薬を治療に使用しています。
SSRI |
パキシル ・ デプロメール ・ ルボックス ・ジェイゾロフト など |
| SSRIは「セロトニン再取り込み阻害剤」と呼ばれるお薬で、脳内の神経伝達物質・セロトニンを強化するお薬です。社会不安障害の方は、このセロトニンが減少し、上手く作用せず、通常よりも強い不安・緊張を感じてしまうことが分かっています。SSRIをお薬の柱として服用し、脳内の不安体質を改善していきます。しばらく服用を続ければ、セロトニンを正常量に回復させることができ、脳内の不安体質は改善されます。お薬に依存性はありません。 |
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抗不安薬 ・ レキソタン ・ リーゼ ・ βブロッカー |
ソラナックス ・ メイラックス ・ デパス ・ ミケラン など |
| お薬の柱がSSRIであるのに対し、柱を支える役目を持つのが「抗不安薬」と「βブロッカー」です。主に、緊張を強く感じる場面で頓服薬(臨時薬)として服用します。抗不安薬は不安・緊張をおさえる作用があります。βブロッカーは、緊張につき物の「ドキドキ感」をおさえるお薬です。ドキドキすると脳が“緊張している”と感じ、更に緊張状態を高めてしまいます。この2つのお薬の力を少しだけ借りることによって「なんだか緊張しないで発表ができた!!」という「成功体験」を作っていくのです。適性使用であれば依存はおこりません。 |
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お薬にはいくつかの種類があります。当院では一人ひとりの症状や体質、状況にあわせて医師が個別に処方しています。医師と良く相談し、ご自分に合ったお薬を選ばれることをお勧めします。
◎ 心理療法 −社会不安障害の心理療法には、認知・行動療法が適しています−
| 認知・行動療法では、 |
恐怖・緊張場面での不安のコントロール法について学習します。
予期不安を解消したり減らす試みをします。
緊張する場面を回避してしまう行動を減らせるよう働きかけます。 |
しかし薬物療法と違い心理療法では社会不安障害の方ご自身にかなりの努力が要求されます。
自分の嫌な場面や避けたい場面に直面しなければなりません。
心理療法の開始直後は、一時的に不安が大きくなるかもしれません。
認知・行動療法はどんな方にも適しているともいえません。
ですから、当院では最初に薬物療法を、その後、ご本人の希望があった場合や薬物治療だけでは著しい改善が見られない方に、薬物療法と併用して心理療法をお勧めしております。
詳しくは医師におたずねください。

社会不安障害の実態把握調査では「社会不安障害の一般人口における有病率は18.2%であると推定」されています(日本エル・シー・エー調べ 2005)。これは、5〜6人に1人という、かなり高い割合です。
先に述べたように、社会不安障害は、その不安・緊張・恐怖感から人それぞれの可能性を狭めてしまう病気です。他の精神疾患も併発しやすく、ますます早い段階からの治療が望まれます。
人前や生活場面で緊張を感じてしまう方、「これは性格だから」「年をとったら治る」「自分が弱いから」ではありません。社会不安障害は治療可能な病気です。治療をすることによって、今まで苦痛に感じていた場面が楽しめるようになり、人生の可能性も広がるのです。
早めに専門医にご相談されてみてはいかがでしょうか。

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