アルコール依存症は、多量の飲酒を続けることで脳に障害が起き、自分の意思では
お酒の飲み方(飲む量・飲む時間・飲む状況)をコントロールできなくなる病気です。
アルコール依存症になると、飲みたい気持ちが抑えられず飲酒量が増える為、
体や心に悪影響を及ぼし、仕事や家庭に支障をきたすようになります。
2024年2月に厚生労働省が飲酒ガイドラインを始めて発表しました。→ガイドラインでは生活習慣病のリスクを高める飲酒量は
「一日あたりの純アルコール摂取量が男性40グラム以上、女性20グラム以上」とされています。
「純アルコール量20グラム」はアルコール度数が5%のビールの場合、中瓶1本=500mLに相当します。
つまりビール500mLを2本飲むと純アルコール摂取量が40g 女性はビール500mLを1本・男性は2本で生活習慣病のリスクを高めることになります。
純アルコール量の計算方法は飲んだ量(◯mL)×アルコール度数(◯%)×アルコールの比重0.8
例:アルコール度数が9%の酎ハイは、ロング缶1本で計算
↓↓↓
飲んだ量(500mL)×アルコール度数(0.09)×アルコールの比重0.8=アルコール量(35.7g)
→アルコール度数が9%の酎ハイは、ロング缶1本を飲んだだけでも厚生労働省が定める
“節度ある飲酒”の基準である20g/日1)を大幅に超えた量になります。
厚生労働省健康に配慮した飲酒に関するガイドライン 001211974
ガイドラインのことが2024.2.19. テレ朝ニュースでも紹介されていました。
日本では、アルコールによって身体的、精神的、社会的に何らかの障害を引き起こす、または引き起こしている「予備軍」は1000万人以上と推定されており、潜在的なアルコール依存症者数はさらに多いと考えられています。しかし実際のデータで、2020年度のアルコール依存症外来患者数は約3.4万人です、入院患者数(約7.5万人)と合わせると合計で10.9万人の患者さんしか治療を受けていないのが実情です。日本生活習慣病予防協会データより
『減酒』という治療選択肢をご存知ですか?
アルコール依存症の治療の基本
①完全断酒が基本:少量飲酒では再発しやすいため、原則として完全に飲まないことを目標とする。
②慢性疾患としての理解:糖尿病や高血圧と同じく「再発を繰り返す病気」と捉え、長期的支援が必要。しかし近年、アルコール依存症の治療は、従来の「入院」と「断酒」に加えて
飲酒量を低減させる「減酒」という選択肢が加わりました。
治療薬の分類
以上3つは断酒を前提とした治療薬
このセリンクロは飲酒量低減治療は断酒に導くための中間的ステップあるいは治療目標の1つとして位置づけられています。 当院ではこのセリンクロを使用したアルコール依存症治療を行っております。
GLP-1RAの禁酒・節酒目的での使用は日本を含めて承認されていませんが。GLP-1が作用するGLP-1受容体は脳内にも分布しており、GLP-1が飲酒量を抑制するという前臨床試験のデータがある様です。
Subhani氏は、「GLP-1RAが将来的には過度の飲酒を抑制するための潜在的な治療選択肢となり、結果的に飲酒関連の死亡者数の減少につながる可能性があるのではないか」と語っている。
将来 減酒療法にこのGLP-1受容体作動薬が加わるかも?ですね。
アルコール依存症治療薬一覧
(下の表1から3は断酒を目的とした治療薬、4は減酒(アルコール低減)目的とした治療薬
薬剤名 | 作用機序 | 使用目的 | 特徴 | 服薬方法 |
1:シアナミド (シアナマイド) |
ALDH阻害薬 |
抗酒薬 (ジスルフィラムより即効性であるが効果の持続が短い) |
アルコールの分解過程がおさえられ、少量の飲酒でも不快な悪酔いの状態となります。そのため、お酒がすすまなくなり、断酒や節酒につながります。 |
1:断酒療法..シアナミドとして通常1日50~200mg (1%溶液として5~20mL)を1~2回に分割経口服用 2:節酒療法..飲酒者のそれまでの飲酒量によっても異なるが、酒量を清酒で180mL前後、ビールで600mL前後程度に抑えるには、通常シアナミドとして15~60mg (1%溶液として1.5~6mL)を1日1回経口服用する。飲酒抑制効果の持続する場合は隔日に服用してもよい。 |
2:ジスルフィラム (ノックビン)
|
ALDHを阻害して血中のアセトアルデヒド濃度を上昇させて不快な症状を引き起こす | 抗酒薬 | 同上 | 通常、1日0.1~0.5gを1~3回に分割経口服用する。 |
3:アカプロサート (レグテクト) |
グルタミン酸作動性神経伝達を阻害して飲酒欲求を抑制する | 断酒補助薬 |
1:脳の神経に働いて飲酒欲求そのものを抑える新しいタイプの断酒補助薬 2:副作用で肝障害になることは少ない 2013年製造販売承認 |
成人はアカンプロサートとして666mgを1日3回食後に経口服用 |
4:ナルメフェン (セリンクロ) |
オピオイド受容体調整作用を介して飲酒欲求を抑制する | 飲酒量低減薬 |
飲酒の1~2時間前に服用することで、中枢神経系に広く存在するオピオイド受容体調節作用を介して飲酒欲求を抑え、アルコール依存症患者さんの飲酒量を低減する薬剤 2019年1月に承認 |
飲酒の1~2時間前に服用する |
断酒治療の場合→アカプロサート(レグテクト)が第一選択薬 シアナマイドやノックビンは肝毒性が強いため、アルコール性肝障害(高γ−GTP血症)の人に使用する場合は肝機能のモニタリングをしながら慎重投与が必要
飲酒量低減療法のナルメフェン(セリンクロ)に関しては日本アルコール・アディクション医学会および日本肝臓学会が主催するeラーニング研修を受講し完了した医師のみ処方可能
アルコール依存症を克服するための自助グループとして、アルコール・アノニマス〈AA〉と断酒会があります。
アルコール・アノニマス〈AA〉:米国で発祥した自助グループで参加者は匿名で参加することができます、お酒をやめたいと願う人であれば、国籍、年齢、宗教、依存症の診断の有無に関わらず誰でも参加でき、会費も必要ありません。メンバー同士で経験や希望を分かち合い、断酒のためのプログラムである「12のステップ」を共有することで、回復を目指す組織。
断酒会:日本断酒連盟によって組織されている自助組織です、同じ悩みを持つ仲間が例会で体験を語り合い、支え合うことで断酒を継続していく活動を行っています。この断酒会の参加者は実名を名乗る必要があります。会費制を取るなど、組織化されています。
理想的なアルコール量は、厚生労働省のガイドラインでは「1日平均純アルコール量約20g程度」が「節度ある適度な飲酒量」とされています。アルコール依存症の方の減酒の理想は1日あたりの純アルコール摂取量は
男性で1日平均40g以下、女性で20g以下が目安と言われています。
※純アルコール量20gの目安
急速に多量飲酒すると「急性アルコール中毒」となり、最悪の場合死に至るケースがあります。
多量のお酒を習慣的に飲み続けると、胃や肝臓などの消化器系だけでなく、
心臓や脳など全身の臓器に障害が起こる可能性があります。
ほとんどの患者さんは『自分は病気ではない』と現状を受け入れません。
アルコール依存症は「否認の病」ともいわれます。
アルコール依存症の人が急にお酒をやめると、離脱症状が現れます。これは脳がアルコールに順応していた状態から急に刺激過多になり、神経が過興奮するためです。震えや不眠などの軽症から始まり、重症ではけいれんやせん妄に至り、命に関わるため入院管理が必要となります。
急性期のアルコール離脱症状は、大量飲酒の後に多く発症します。
断酒後1~3日目に最も強く出現し、4~5日間続きます。
症状は時間の経過に伴って変化します。
典型的には
断酒後6~8時間で手指の振戦や各種の自律神経症状(発汗や不安感)などが現れ、
8~12時間で知覚症状(幻覚の内容には、昆虫や小人などの幻視)など、
12~24時間ではてんかん発作
72時間以に振戦・せん妄が出現する事があります。
アルコール離脱症状への薬物療法は、通常はベンゾジアゼピン系の抗不安薬、睡眠薬が使用されます。
ベンゾジアゼピンはアルコールと同じく脳内のGABA受容体に作用部位を持ち、
アルコールとの交叉耐性を用いて離脱症状を軽減します。
よく用いられる薬剤は、呼吸状態や肝機能に気を付けて長時間型のジアゼパム(セルシン)や、
より作用時間の短いロラゼパム(ワイパックス)などが使用されます。
また、抗精神病薬であるハロペリドールや非定型抗精神病薬なども使われます。
アルコール離脱せん妄は、治療が行われない場合の死亡率は20%ともいわれ、
特にその予防が重要です。
多量の飲酒により「脂肪肝」を発症し、そのまま飲酒を続けると
「アルコール肝炎」「肝線維症」へと進行し、最終的には「肝硬変」や「肝臓がん」になり、
生命を脅かす危険性があることが知られています。
肝臓は「沈黙の臓器」と言われるように、肝臓の機能が弱っていても、初期の段階では自覚症状がなく、健診などで異常が指摘されることがほとんどです。
アルコールを飲む方は、定期的に検査を行い、異常が認められた場合は、早期から飲酒量を減らしたり、お酒をやめたりすることが重要です。
不眠を解消する目的で飲酒する(寝酒する)方は、一見「寝つき」が良くなったように感じます。
しかし実際の睡眠の質はとても悪くなってしまいます、疲れが取れず慢性的なアルコールの摂取は、中途覚醒や睡眠の質を低下させます。
慢性的な多量飲酒は、脳の萎縮や脳血管障害を引き起こし、
飲酒に伴う頭部外傷やけいれんの既往などが認知症発症の原因となるとされています。
また、食事をせずに飲酒する習慣がある方は、Wernicke‐Korsakoff (ウェルニッケ・コルサコフ)症候群になる可能性があります、これは偏った食事によりビタミンB1(チアミン)が不足して、意識障害、運動障害(小脳失調)、眼球運動障害をきすと言われています。栄養バランスに対する配慮が必要です。
習慣的に飲酒量が増えると、血圧が高くなる傾向があります。
高血圧は日本人の脳梗塞や冠動脈疾患といった循環器疾患の危険因子の1つであることなどから、
血圧が高く習慣的に飲酒をする方は、まずは飲酒習慣を見直してみましょう。
休暇中の多量飲酒や頻回飲酒に伴い生じる症状は、不整脈が原因になっている場合があります。
飲酒は心房細動の発症リスクを高めるだけでなく、持続的な飲酒は心房細動が持続化し、
血栓症や心不全に進展するリスクにも関連することが報告されています。
アルコールや、アルコールが体内で分解されてできる”アセトアルデヒド”は発がん性があり、
この分解酵素の働きが弱い人が多量飲酒すると、口腔、咽頭、食道の発がんリスクが高まります。
体内のアルコール量が減った時に起こる「離脱(禁断)症状」です。
手の震え・悪寒・寝汗・イライラ・不安・焦燥感・睡眠障害などがみられます。
こうした症状は、アルコールを飲むと一時的に治まります。
しかしアルコール依存症の期間が長引いてくると常に手が震えるようになってしまいます。
アルコールを飲みすぎた時に筋肉が損傷を受け、筋肉の痛み、脱力感、筋力低下、こむら返りといった症状が出ることを「急性アルコール性筋肉痛(ミオパチー)」と言います。
アルコールを長期にわたり大量に飲酒すると、高い確率で末梢神経の障害を発症する可能性や、
数週間~数か月にわたって徐々に筋力が低下する慢性アルコール性筋肉痛になる可能性があります。
飲酒中に発生するアセトアルデヒドによる血管拡張や、飲酒後に起こる脱水、低血糖、アセトアルデヒドの蓄積などが原因で引き起こされる頭痛。
・お酒を飲んだら、頭がズキズキする
・お酒を飲んだ後、帰る途中で頭がズキズキする
・朝起きたら、頭がガンガンする
緊張型頭痛、偏頭痛とは違い、アルコール性頭痛はガンガンと脈を打つような痛みが特徴です。
アルコールを減らすメリットについて、短期的・長期的それぞれ紹介します。
・翌日の仕事のパフォーマンスが上がった
・飲んだ翌朝の寝起きがすっきりした(二日酔いや、胃腸の調子など)
・血圧が下がった
・体重が減った
・肝臓の検査値が改善した
・頭がハッキリして、集中しやすくなった
・友人や家族と飲酒のことで揉めなくなった
・金銭的余裕ができ、飲酒以外の趣味などにまわせるようになった
1. 直接的なメリット
飲酒代の節約
日々の缶ビールやウイスキー、居酒屋代などがなくなることで大幅な出費減。
飲酒習慣 年間費用(推定) | |
軽度(缶ビール1本/日) | 73,000 円(7.3万円) |
中等度(缶ビール3本/日) | 219,000 円(約22万円) |
重度(缶ビール6本/日+外飲み週1回) | 646,000 円(約65万円) |
依存症レベル(缶ビール6本/日+外飲み週3回) | 1,062,000 円(約100万円) |
関連出費の減少
おつまみ代、タクシー代、二日酔い対策の薬やドリンク代なども減る。
2. 医療費の削減
長期的な飲酒に伴う肝疾患、膵炎、がん、うつ病などのリスクが下がり、医療費や入院費が軽減。
健康維持により、仕事を休む回数も減少。
3. 仕事・収入面のメリット
二日酔いがなくなることで 生産性向上、昇進や評価につながる可能性。
長期的には労働意欲・集中力が改善し、キャリア維持・収入安定につながる。
4. 社会的・生活面での節約
飲酒トラブル(交通違反・事故、暴力など)による罰金や補償リスクを回避。
家庭内トラブルの減少 → 離婚や慰謝料などの経済的負担リスクを下げる。
・平均的な飲酒量と長期的な健康リスクの関係は、病気の種類によって様々です。
・適切な飲酒習慣は多量の飲酒習慣を続ける場合と比べて健康リスクを低下させる傾向にあります。
・継続的な多量飲酒者における死亡率は、飲酒量を減らすことで低下することが知られています。
減酒治療は、病気の理解を深める「導入期」、治療の継続を目指す「治療開始時」、
現状を維持して再発を防ぐ「維持管理期」の3つのステージがあります。
外来治療が基本です。
減酒治療では、飲酒量や服薬状況、健康状態、日常生活上の変化を確認しながら、
目標とする飲酒量の達成、治療の継続を目指します。
強制的な治療ではなく、本人の意思を尊重します。
患者さんの希望に応じて、下記の治療内容を行うことが一般的です。
□ 飲酒に関するお悩み、困りごとについてまとめる
□ 飲酒に関するチェックテストにより飲酒問題の程度を評価して説明する
□ 血液検査や他の治療中の疾患から、身体の健康度を評価し、関連する病気について説明する
□ 治療方針や治療目的を患者さんと話し合う
□ 飲酒日記などのレコーディングを行ったり、飲酒状況について話し合う
□ 減酒によって得られたメリットを確認する
セリンクロ お酒を飲みたい気持ちを抑え、飲酒量を調節するお薬です。 用量は、患者さんの症状に合わせて医師が決めます。 通常は1回1錠をお酒を飲み始める1~2時間前に 服用します。 |
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セリンクロ治療のケースの紹介(γ-GTPの変化の図 患者さんの許可を貰っていアップしてます)
セリンクロによる治療において、ご自身の飲酒習慣を知ることは、飲酒量を減らす手助けとなります。
「減酒にっき」は、日々の飲酒量や服薬を記録するサポートアプリです。
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アルコール依存症について気になる方は、お気軽にお問い合わせください。
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