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アルコール依存症 (減酒療法) 

アルコール依存症とは?

アルコール依存症は、多量の飲酒を続けることで脳に障害が起き、自分の意思では

お酒の飲み方(飲む量・飲む時間・飲む状況)をコントロールできなくなる病気です。

アルコール依存症になると、飲みたい気持ちが抑えられず飲酒量が増える為、

体や心に悪影響を及ぼし、仕事や家庭に支障をきたすようになります。

 

2024年2月に厚生労働省が飲酒ガイドラインを始めて発表しました。→ガイドラインでは生活習慣病のリスクを高める飲酒量は「一日あたりの純アルコール摂取量が男性40グラム以上、女性20グラム以上」とされています。「純アルコール量20グラム」はアルコール度数が5%のビールの場合、中瓶1本=500mLに相当します。つまりビール500mLを2本飲むと純アルコール摂取量が40g 女性はビール500mLを1本・男性は2本生活習慣病のリスクを高めることになります。 

厚生労働省健康に配慮した飲酒に関するガイドライン 001211974


 2024.2.19. テレ朝ニュースでも紹介されていました。

アルコール依存症 治療の考え方

『減酒』という治療選択肢をご存知ですか?

アルコール依存症は、患者さんひとりで回復を目指すのは難しい病気で、

適切な治療を受ける必要があります。

近年、アルコール依存症の治療は、従来の「入院」と「断酒」に加えて

飲酒量を低減させる「減酒」という選択肢が加わりました。

治療薬の分類
A:抗酒薬(嫌酒薬)のシアナマイド(約5分で効果発現する水薬、速効性で12-24時間効果持続)とノックビン(遅効性の粉薬、作用は強く1-2週間持続) 2つの薬は不快な悪酔い症状を引き起こすことで飲酒欲求をなくすお薬。
B:脳の神経に働いて飲酒欲求そのものを抑える新しいタイプの断酒補助薬のレグテクト(服用期間は原則6ヶ月) 有効率は抗酒薬よりやや劣ります。 
以上3つは断酒を前提とした治療薬 
C:断酒ではなく減酒を目的とした初めての薬、セリンクロ 
このセリンクロは飲酒量低減治療は断酒に導くための中間的ステップあるいは治療目標の1つとして位置づけられています。 当院ではこのセリンクロを使用したアルコール依存症治療を行っております。

 

アルコール依存症治療薬一覧

(下の表1から3は断酒を目的とした治療薬、4は減酒(アルコール低減)目的とした治療薬

薬剤名  作用機序 使用目的 特徴 服薬方法

1:シアナミド

(シアナマイド)

ALDH阻害薬

抗酒薬

(ジスルフィラムより即効性であるが効果の持続が短い)

アルコールの分解過程がおさえられ、少量の飲酒でも不快な悪酔いの状態となります。そのため、お酒がすすまなくなり、断酒や節酒につながります。

1:断酒療法..シアナミドとして通常1日50~200mg (1%溶液として5~20mL)を1~2回に分割経口服用

2:節酒療法..飲酒者のそれまでの飲酒量によっても異なるが、酒量を清酒で180mL前後、ビールで600mL前後程度に抑えるには、通常シアナミドとして15~60mg (1%溶液として1.5~6mL)を1日1回経口服用する。飲酒抑制効果の持続する場合は隔日に服用してもよい。

2:ジスルフィラム

(ノックビン) 

 

ALDHを阻害して血中のアセトアルデヒド濃度を上昇させて不快な症状を引き起こす 抗酒薬 同上 通常、1日0.1~0.5gを1~3回に分割経口服用する。

3:アカプロサート

(レグテクト)

グルタミン酸作動性神経伝達を阻害して飲酒欲求を抑制する 断酒補助薬

1:脳の神経に働いて飲酒欲求そのものを抑える新しいタイプの断酒補助薬

2:副作用で肝障害になることは少ない

2013年製造販売承認 

成人はアカンプロサートとして666mgを1日3回食後に経口服用

4:ナルメフェン

(セリンクロ)

オピオイド受容体調整作用を介して飲酒欲求を抑制する 飲酒量低減薬

飲酒の1~2時間前に服用することで、中枢神経系に広く存在するオピオイド受容体調節作用を介して飲酒欲求を抑え、アルコール依存症患者さんの飲酒量を低減する薬剤

2019年1月に承認

飲酒の1~2時間前に服用する

 

断酒治療の場合→アカプロサート(レグテクト)が第一選択薬 シアナマイドやノックビンは肝毒性が強いため、アルコール性肝障害(高γ−GTP血症)の人に使用する場合は肝機能のモニタリングをしながら慎重投与が必要 

飲酒量低減療法のナルメフェン(セリンクロ)に関しては日本アルコール・アディクション医学会および日本肝臓学会が主催するeラーニング研修を受講し完了した医師のみ処方可能 

生活習慣病のリスクを高める飲酒量

減酒の理想は1日あたりの純アルコール摂取量が

男性で1日平均40g以下女性20g以下が目安と言われています。

※純アルコール量20gの目安

アルコールによる危険状態

急速に多量飲酒すると「急性アルコール中毒」となり、最悪の場合死に至るケースがあります。

飲酒により引き起こされる病気

多量のお酒を習慣的に飲み続けると、胃や肝臓などの消化器系だけでなく、

心臓や脳など全身の臓器に障害が起こる可能性があります。

 

① アルコール離脱症状

アルコールが抜けると、イライラ神経過敏、不眠、頭痛・吐き気、下痢、手の震え
発汗、頻脈・動悸
などの離脱症状が出てきます。
それを抑える為に、またお酒を飲む…といった負のスパイラルに入ってしまいます。

ほとんどの患者さんは『自分は病気ではない』と現状を受け入れません。
アルコール依存症は「否認の病」ともいわれます。

急性期のアルコール離脱症状は、大量飲酒の後に多く発症します。
断酒後1~3日目に最も強く出現し、4~5日間続きます。

症状は時間の経過に伴って変化します。
典型的には断酒後6~8時間で手指の振戦や各種の自律神経症状などが現れ、
8~12時間で知覚症状(幻覚の内容には、昆虫や小人などの幻視)など、
12~24時間ではてんかん発作72時間以内に振戦・せん妄が出現する事があります。

アルコール離脱症状への薬物療法は、通常はベンゾジアゼピン系の抗不安薬、睡眠薬が使用されます。
ベンゾジアゼピンはアルコールと同じく脳内のGABA受容体に作用部位を持ち、
アルコールとの交叉耐性を用いて離脱症状を軽減します。

よく用いられる薬剤は、呼吸状態や肝機能に気を付けて長時間型のジアゼパム(セルシン)や、
より作用時間の短いロラゼパム(ワイパックス)などが使用されます。
また、抗精神病薬であるハロペリドールや非定型抗精神病薬なども使われます。
アルコール離脱せん妄は、治療が行われない場合の死亡率は20%ともいわれ、
特にその予防が重要です。

② 肝障害

多量の飲酒により「脂肪肝」を発症し、そのまま飲酒を続けると

「アルコール肝炎」「肝線維症」へと進行し、最終的には「肝硬変」「肝臓がん」になり、

生命を脅かす危険性があることが知られています。

肝臓は「沈黙の臓器」と言われるように、肝臓の機能が弱っていても、初期の段階では自覚症状がなく、健診などで異常が指摘されることがほとんどです。

アルコールを飲む方は、定期的に検査を行い、異常が認められた場合は、早期から飲酒量を減らしたり、お酒をやめたりすることが重要です。

 

③ 睡眠障害

不眠を解消する目的で飲酒する(寝酒する)方は、一見「寝つき」が良くなったように感じます。

しかし、慢性的なアルコールの摂取は、中途覚醒や睡眠の質を低下させます。

④ 認知症

慢性的な多量飲酒は、脳の萎縮や脳血管障害を引き起こし、

飲酒に伴う頭部外傷けいれんの既往などが認知症発症の原因となるとされています。

また、食事をせずに飲酒する習慣がある方は、Wernicke 症候群になる可能性があります、これは偏った食事によりビタミンB1(チアミン)が不足して、意識障害、運動障害(小脳失調)、眼球運動障害をきすと言われています。栄養バランスに対する配慮が必要です。

⑤ 高血圧

習慣的に飲酒量が増えると、血圧が高くなる傾向があります。

高血圧は日本人の脳梗塞や冠動脈疾患といった循環器疾患の危険因子の1つであることなどから、

血圧が高く習慣的に飲酒をする方は、まずは飲酒習慣を見直してみましょう。

⑥ 心房細動

休暇中の多量飲酒や頻回飲酒に伴い生じる症状は、不整脈が原因になっている場合があります。

飲酒は心房細動の発症リスクを高めるだけでなく、持続的な飲酒は心房細動が持続化し、

血栓症心不全に進展するリスクにも関連することが報告されています。

⑦ がん

アルコールや、アルコールが体内で分解されてできる”アセトアルデヒド”は発がん性があり、

この分解酵素の働きが弱い人が多量飲酒すると、口腔、咽頭、食道の発がんリスクが高まります。

⑧ アルコール振戦

体内のアルコール量が減った時に起こる「離脱(禁断)症状」です。

手の震え・悪寒・寝汗・イライラ・不安・焦燥感・睡眠障害などがみられます。

こうした症状は、アルコールを飲むと一時的に治まります。

しかしアルコール依存症の期間が長引いてくると常に手が震えるようになってしまいます。

⑨ アルコール性筋肉痛(ミオパチー)

アルコールを飲みすぎた時に、筋肉痛やむくみ、筋力低下などの症状が出ることを

「急性アルコール性筋肉痛(ミオパチー)」と言います。

アルコールを長期にわたり大量に飲酒すると、高い確率で末梢神経の障害を発症する可能性や、

数週間~数か月にわたって徐々に筋力が低下する慢性アルコール性筋肉痛になる可能性があります。

⑩ アルコール性頭痛

・お酒を飲んだら、頭がズキズキする

・お酒を飲んだ後、帰る途中で頭がズキズキする

・朝起きたら、頭がガンガンする

緊張型頭痛、偏頭痛とは違い、アルコール性頭痛はガンガンと脈を打つような痛みが特徴です。

アルコールを減らすメリット

アルコールを減らすメリットについて、短期的・長期的それぞれ紹介します。

短期的なメリット

 ・翌日の仕事のパフォーマンスが上がった

 ・飲んだ翌朝の寝起きがすっきりした(二日酔いや、胃腸の調子など)

 ・血圧が下がった

 ・体重が減った

 ・肝臓の検査値が改善した

 ・頭がハッキリして、集中しやすくなった

 ・友人や家族と飲酒のことで揉めなくなった

 ・金銭的余裕ができ、飲酒以外の趣味などにまわせるようになった

長期的なメリットその①  飲酒量と健康リスク

 ・平均的な飲酒量と長期的な健康リスクの関係は、病気の種類によって様々です。 

 ・適切な飲酒習慣は多量の飲酒習慣を続ける場合と比べて健康リスクを低下させる傾向にあります。

長期的なメリットその② 飲酒と飲酒による死亡率の関係

 ・継続的な多量飲酒者における死亡率は、飲酒量を減らすことで低下することが知られています。

飲酒量低減治療(減酒治療)とは 

減酒治療は、病気の理解を深める「導入期」、治療の継続を目指す「治療開始時」

現状を維持して再発を防ぐ「維持管理期」の3つのステージがあります。

外来治療が基本です。

減酒治療では、飲酒量や服薬状況、健康状態、日常生活上の変化を確認しながら

目標とする飲酒量の達成、治療の継続を目指します。

強制的な治療ではなく、本人の意思を尊重します。

患者さんの希望に応じて、下記の治療内容を行うことが一般的です。

 □ 飲酒に関するお悩み、困りごとについてまとめる

 □ 飲酒に関するチェックテストにより飲酒問題の程度を評価して説明する

 □ 血液検査や他の治療中の疾患から、身体の健康度を評価し、関連する病気について説明する

 □ 治療方針や治療目的を患者さんと話し合う

 □ 飲酒日記などのレコーディングを行ったり、飲酒状況について話し合う

 □ 減酒によって得られたメリットを確認する

減酒治療薬

 

セリンクロ

お酒を飲みたい気持ちを抑え、飲酒量を調節するお薬です。

用量は、患者さんの症状に合わせて医師が決めます。

通常は1回1錠お酒を飲み始める1~2時間前に

服用します。

セリンクロ治療のケースの紹介(γ-GTPの変化の図 患者さんの許可を貰っていアップしてます)

 

減酒にっき

セリンクロによる治療において、ご自身の飲酒習慣を知ることは、飲酒量を減らす手助けとなります。

「減酒にっき」は、日々の飲酒量や服薬を記録するサポートアプリです。

~アプリのダウンロード~

  

     

 

アルコール依存症について気になる方は、お気軽にお問い合わせください。

TEL 092-738-8733

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〒 810-0001

福岡市中央区天神1丁目2-12 メットライフ天神ビル4階 (2016年10月1日から天神122ビル→メットライフ天神ビルに変更 2017年10月1日で併記(移行)期間終了)

TEL:092-738-8733