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複雑性PTSD 

複雑性PTSD という言葉をご存知でしょうか?

元々PTSDは命の安全が脅かされるような出来事(戦争、天災、事故、犯罪、虐待など)によって強い精神的衝撃を受けることが原因で、著しい苦痛や、生活機能の障害をもたらしている疾患として知られています。

PTSDは第一次世界大戦後やベトナム戦争後帰還兵士の精神症状の研究などが有名ですが、家庭内暴力や性的暴力など客観的には生命を脅かされるとも言えないストレスでも本人にとっては強烈なストレスを感じることで症状発症に至るケースも多く見られています。生命を脅かす病気(心臓発作)などもきっかけとなる人もいるようです。

複雑性PTSDは命の安全が脅かされなくとも 慢性的持続的なストレスが続き、心の傷が折り重なって生じて起こるPTSDとして認知されてきています。

幼少期の親からの虐待、学校時代の長期間にわたるイジメ体験などで発症する方が多いと言われています。日本では考えられないこととしてですが拷問体験、ジェノサイドキャンペーン、強制収容、奴隷問題などもイベントとして考えられます。

複雑性PTSDの診断基準としては

『「PTSDのすべての診断要件」、つまり外傷性イベントとしての出来事基準

(1)再体験症状(フラッシュバックや悪夢)(2)回避症状(3)過覚醒症状の3つの症状に加え

(4)感情調節不全(5)否定的自己概念(6)対人関係の障害、の6つの徴候を満たすものとされています』

 

1:再体験症状(フラッシュバック、侵入症状)→何かのきっかけにより、思い出したくないのに、辛い記憶が思い出されます。情景が動画のように思い出される人もいますが、情景は浮かばなくても、
辛い体験をしていたときの感情や気分だけが再生のこともあります。無意識的に気分が悪くなるだけと認識してフラッシュバックと捕らえてない事もあるようです。

2:回避症状→出来事を思い出させるものを避けたり、出来事の記憶を思い出せなかったり、人物や状況や会話を思い出すことを回避したり、人ごとのように感じたりする

3:過覚醒症状→いつも気持ちが張り詰め、ドキドキしたり、物音にひどく驚いたり、怒りっぽくなったりします(常に交感神経モードになって、リラックス出来ない状況が続いている) 

感情調節不全・否定的自己概念(自己評価が低く自信を持てない 自尊感情の低下)・対人関係の障害

→持続的で過剰に否定的な感情を持ち、色んな事に興味や関心が持てず、やる気、元気、意欲などが持続的に低下している、周囲との疎外感や孤立感を感じている。幸福感、優しさなどの感情の欠如など 

 

PTSDと複雑性PTSDの診断基準の違いとして複雑性PTSDには長期的または反復的なストレスの暴露  が追加されています。

日本トラウマティック・ストレス学会にPTSD評価尺度(PTSD-Ⅳ)が公開されています。興味のあるかたは参照してください。

 

治療としては

1:心理療法 2:薬物療法、3:その他の治療が挙げられますが

PTSD治療の上で最も効果があるのは、心理療法の中のトラウマを扱う認知行動療法と言われています。

 代表的な治療として持続エクスポージャー療法PE療法(Prolonged Exposure Therapy:長時間曝露法)と言われています。

暴露療法とは・恐怖を覚える事物・状況・記憶 やイメージに安全な環境の下で患者が向き合う ことを促すためにデザインされた一連の技法を指 しています。

実際の手技としては「イメージ曝露」 (imageryもしくは imaginal exposure)と「実生活内曝露」(in vivo exposure)の2つを含みます(前者は想像曝露・後者は現実曝露と訳されるこ とも多い)

イメージ曝露(想像暴露)ではトラウマ体験の記憶への直 面を促すものでセッションの中で PTSD の原因となったトラウマ体験場面を想起させその時の感覚や感情を賦活しながらトラウマ体験を繰り返し語ることで馴化を促す技法です。 

実生活内曝露(現実暴露)では患者さんが回避の対象としている事物や状況に徐々に近づく(段階的曝露)ことを促し馴化をはかる技法です。具体的手順としてはまず不安階層表(不安喚起・回避の原因となる 事 物・状況を自覚的症状から自らリストアップ)を作成しその中から取り組めそうな課題を選択する。課題の 刺激強度は漸増す方法を取る。

→当院での不安階層表(当院での社会不安障害のケースの例) 

 

当院の例(社会不安障害のケース)で見ると 不安場面のリストを自ら患者さんに作って貰い 不安の強度順に並べて その場面を過ごすことが出来た、クリアー出来た日時を記入して貰う 最初は不安の強度の低い場面しか克服出来なくても徐々に上位場面でも克服出来る様になることをサポートしていきます。

 

また心理療法として認知処理療法(CPT)、眼球運動脱感作療法(EMDR)などもあります。(当院では行っておりません) 

2:薬物療法としては SSRIが中心となりますが NaSSA(ナッサ)やSNRIやS-RIM(エスリム)などうつ病・うつ状態が併発している時は有効なことも多いと考えられています。

SSRIのジェイゾロフト(セルトラリン)パキシル(パロキセチン)はPTSDに医療保険の適応があるSSRIです。

ベンゾジアゼピン系の抗不安薬も短期的に使用されることもあります。 

また非定型抗精神病薬のリスパダール(リスペリドン)・エビリファイ(アルピプラゾール)・セロクエル(クエチアピン)も妄想やフラッシュバックなどの精神症状が強い場合は有効です。

 

3:その他

交感神経モードになっていることの改善として(副交感神経を優位にすることとして)

①腹式呼吸 →呼気を意識する 出来るだけ呼気を長くを意識する

②息をこらえる→胸腔内圧が上がりそのために右心や肺への血液還流が減少するので心臓から出る血液も減り血圧や脈拍が下がる 

③頸部マッサージ→頸動脈洞(総頸動脈から内頸動脈が分岐した部位)が刺激されると洞神経を介して延髄の心臓抑圧神経の活動を高めそして血管緊張を高める神経の活動を抑えてしまうので心臓の活動が抑えられ血圧や脈が下がる

③冷たい水を飲む 冷たい水を入れた洗面器に顔をつけて息を止める

④運動やマッサージ →運動やマッサージの後は副交感神経モードになっている 

⑤歌を歌う→横隔膜を動かす、腹式呼吸を無意識的にすることから副交感神経モードになる 

 

 

 

 

複雑性PTSDも通常のPTSDも 薬物療法および心理療法で症状は軽減できると言われています。

辛い症状が続いているなら 勇気を出して医療機関へ相談されることをお勧めします。

 

 

 

 

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