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妊娠中の抗うつ薬治療をどうするか?近年の傾向 

私がまだ医師になりたての頃うつ病・うつ状態の治療で
妊娠したらまず抗うつ薬は中止
出産し母乳を飲ませるなら抗うつ薬は中止すること、
うつ病の治療を行うなら母乳をミルクに変えましょう、
というのが一般的でした。
(私が卒業した1987年頃の話です) 

 

しかし近年、複数の日本の学会より
周産期の抗うつ薬治療に関する治療ガイドラインが
発表され、
最新の動向や妊娠中の抗うつ薬継続投与を評価し、
出産前抗うつ薬処方を最適化することが
重要であると考えられてきています。
 
特に、妊娠前からうつ病・うつ状態を患っている方は、
産後うつ病にかかるリスクが高くなり、
育児に対して苛々などもあり、
うつ病・うつ状態の母親から子供の精神衛生をどう守るかが
クローズアップされているのも事実です。 

日本における2012年から2023年までの妊娠中の抗うつ薬継続傾向:コホート研究。の結果
↓↓↓

1.出産時の平均年齢が32.5歳であった女性17万9,797例のうち、
  妊娠中に抗うつ薬を処方されていた女性は1,870例(1.04%)

2.抗うつ薬処方率は、10年間で処方される割合はグンと上がってます。
  2012年の0.63%から2023年の1.67%へと増加していた(p<0.0001)。

3.妊娠初期に抗うつ薬が処方されていた女性1,730例(0.96%)のうち、
  妊娠中に抗うつ薬処方を継続していた女性は670例(38.7%)であり、
  抗うつ薬継続率は2012年の19.51%から2023年の50.70%へと
  有意な増加が認められた(p<0.0001)

4.妊娠中に最も処方されていた抗うつ薬クラスは、
  セロトニン再取り込み阻害薬 SSRI(0.74%)であり、
  なかでもセルトラリン(0.33%)およびエスシタロプラム(0.23%)
  の有意な増加が認められた。

著者は「妊娠中の抗うつ薬処方および処方継続が
一般的になっていることを考慮すると、妊娠前のケア
および共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)の
促進を含め、ガイドラインの内容が専門医および
出産年齢女性により広まることが求められる

としています、私も患者さんがどの様に考えているかを重視した対応が
必要だと思っております。

追記:妊婦さんが飲んでいけないお薬(絶対的禁忌薬)の一覧
 

薬剤の分類 一般名(商品名例) 避けるべき主な理由とリスク
抗てんかん薬 バルプロ酸(VPA) (デパケン、セレニカなど) 神経管閉鎖不全など、重度の先天奇形のリスクが非常に高い。特に妊娠初期に厳禁。
皮膚科用薬 イソトレチノイン (アキュテインなど) 催奇形性が極めて強く、中枢神経系、顔面、心臓などに重度の奇形を引き起こす。投与中および投与中止後も厳重な避妊が必須。
抗てんかん薬 タラモナール バルプロ酸と同様に神経管閉鎖不全などの先天奇形のリスク。
降圧薬 ACE阻害薬 (カプトプリル、エナラプリルなど) 妊娠中期・後期に投与すると、胎児の腎機能障害、羊水過少症、発育不全などの胎児毒性リスク。
降圧薬 アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB) (ロサルタン、カンデサルタンなど) ACE阻害薬と同様に、妊娠中期・後期での投与は胎児に重篤な腎障害を引き起こすリスク。
ホルモン剤 ジエチルスチルベストロール(DES) 胎児の性器異常、将来的な女性の子宮・膣の癌リスク。
免疫抑制剤・抗リウマチ薬 メトトレキサート(MTX) 催奇形性、流産のリスク。
抗凝固薬 ワルファリン (ワーファリン)

妊娠初期:骨・軟骨の異常などの催奇形性リスク。

 

妊娠後期:胎児・新生児の出血リスク。

抗癌剤・免疫抑制剤 ミコフェノール酸モフェチル (セルセプトなど) 流産、催奇形性のリスク。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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