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産後の授乳について

向精神薬を服用中の産後の授乳について

 

 

 従来:授乳中の婦人に投与する場合には、

    授乳を中止させること。
 改訂版治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し、

    授乳の継続または中止を検討すること。 

以前は 否応なしに授乳中止との記載

改訂版では
治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し、

授乳の継続または中止を検討すること となっています 

そこで治療上の有益性および母乳栄養の有益性を
考慮する判断材料として 
産後授乳の指標は

 以前はM/P比(milk/psasma ratio :薬の乳汁濃度と血中濃度の比) 

を使用していましたが
現在は 相対的乳児投与量:RID(Relative infant dose)

指標とするようになっています。

RID(%)= 児が母乳経由で摂取すると考えられる推定量(mg/Kg/Day) ×100
         児の治療用量(mg/Kg/Day)

現在RID(%)が10%未満なら お母さんが子どもに母乳を
与えても問題なくほぼ安全と考えれています。 

 


日本産婦人科学会・日本産婦人科医会編集・監修、
   産婦人科診療ガイドライン産科編2020より 

各薬品の相対的乳児摂取量(RID)

(抗うつ薬)

 

 

分類

一般名(製品名)

RID(%)

SSRI

エスシタロプラム(レクサプロ)

5.2-7.9

パロキセチン(パキシル)

1.2-2.8

セルトラリン(ジェイゾロフト)

0.4-2.2

フルボキサミン(デプロメール)

0.3-1.4

SNRI

ベンラファキシン(イフェクサー)

6.8-8.1

デュロキセチン(サインバルタ)

0.12-1.12

ミルナシプラン(トレドミン)

-

NaSSA

ミルタザピン(リフレックス)

1.6-6.3

S-RIM

ボルチオキセチン(トリンテリックス)

1.22-1.85

(抗不安薬)

分類

一般名(製品名)

RID(%)

ベンゾジアゼピン系

ロフラゼプ酸エチル(メイラックス)

12.4-13.7

アルプラゾラム(ソラナックス)

8.5

ロラゼパム(ワイパックス)

2.6-2.9

クロチアゼパム(リーゼ)

2.5

ジアゼパム(セルシン)

0.88-7.14

エチゾラム(デパス)

0.6

クロキサゾラム(セパゾン)

-

セロトニン1A受容体

部分作動薬

タンドスピロン(セディール)

-

(気分安定薬)

一般名(製品名)

RID(%)

ラモトリギン(ラミクタール)

9.2-18.27

炭酸リチウム(リーマス)    

0.87-7.29

カルバマゼピン(テグレトール)

3.8-5.9

バルプロ酸ナトリウム(デパケン)

0.99-5.6

 

抗精神病薬〉

分類

一般名(製品名)

RID(%)

フェノチアジン系

クロルプロマジン(コントミン)

2.1

ブチロフェノン系

ハロペリドール(セレネース)

0.2-1.2

SDA

リスペリドン(リスパダール)

0.1-2.8

ルラシドン(ラツーダ)

0.44

パリペリドン(インヴェガ)

-

ブロナンセリン(ロナセン)

-

MARTA

オランザピン(ジプレキサ)

0.28-2.24

クエチアピン(セロクエル・ビプレッソ)

0.02-0.1

アセナピン(シクレスト)

-

DPA

アリピプラゾール(エビリファイ)

0.7-6.44

ブレクスピプラゾール(レキサルティ)

-

Hale TW, Krutsch K. Hale’s Medications&Mothers’Milk 2023より

※RIDが10%未満であればほぼ安全とされているため
結論として

向精神薬の中で半減期が

長いロフラゼプ酸エチル(メイラックス)
とお薬そのもののに由来する

ラモトリギン(ラミクタール)以外のお薬は
お母さんが子どもに母乳を与えても問題なく

ほぼ安全と言えると思います。 

最終的には 母乳栄養のメリットとデメリット
などもふまえて総合的に考えて判断しましょう

 

母乳栄養のメリット 母乳栄養のデメリット・注意点
1. 赤ちゃんにとっての利点 1. 母親側の負担

 免疫力の向上
母乳には免疫グロブリン(IgAなど)、白血球、ラクトフェリンが含まれ、感染症(風邪、胃腸炎、中耳炎など)から守ります。

 時間的・身体的負担
授乳間隔が短く、特に夜間授乳で睡眠不足になりやすい。

 アレルギー予防
牛乳タンパクと異なり、アレルギーの発症リスクが低くなります。

 乳腺炎などのリスク
乳房のケア不足や授乳トラブルで炎症・痛みが起きることがあります。

 消化がよい
母乳は赤ちゃんの消化器官に適しており、便通が安定しやすいです。

 食事や薬への制限
カフェイン、アルコール、薬剤によっては赤ちゃんへの影響を考慮する必要があります。→相対的乳児摂取量(RID%)を考慮

 発達促進
DHA・ARA(脳や視覚の発達に関与)を含み、認知機能や視覚の発達を支えます。

2. 栄養バランスの個人差
母親の栄養状態が悪いと、母乳中の一部栄養素(特にビタミンDやB12)が不足する可能性があります。
 母子の愛着形成
授乳時のスキンシップが情緒の安定と信頼関係の基盤になります。
3. 外出・職場復帰の制約
搾乳や授乳場所の確保が必要となり、社会生活との両立に工夫が必要。
2. 母親にとっての利点  
 産後の子宮回復を促進
オキシトシンの分泌により、子宮の収縮を助け、産後出血を減らします。
 
 乳がん・卵巣がんのリスク低下
授乳経験はホルモンバランスの変化を通じて、将来のがんリスクを下げる可能性があります。
 
 経済的負担が少ない
 ミルク代が不要で、準備も簡単です。
 

 

 

追記:東京都23区の妊産婦の異状死の実態調査より(順天堂大学 竹田省より) 

この調査では 妊娠初期2ヶ月目 と産後3ヶ月4ヶ月頃自殺される方が
多い結果でした。 自死の徴候を早期に周囲が気づくためにも
エジンバラ(EPDS)スコアーの活用や適切な 向精神薬の投薬が必要
だと実感しています。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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