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鉄欠乏性貧血(隠れ貧血の視点から)

 1. 隠れ貧血とは?
一般的な血液検査では「貧血なし」と診断されるが、体内の鉄が不足している状態

「潜在性鉄欠乏」や「鉄欠乏状態」とも呼ばれる

自覚症状があっても、ヘモグロビン(Hb)値が正常範囲であるため見逃されやすい

2. 通常の貧血との違い
分類 ヘモグロビン (Hb) フェリチン(貯蔵鉄) 自覚症状
正常 正常 正常 なし
隠れ貧血 正常 低い↓↓ あり
鉄欠乏性貧血 低い↓↓ 低い↓↓ あり

フェリチン:体内の鉄の貯蔵量を示す指標。これが低いと鉄不足の可能性が高い。 
欧米の基準ではフェリチンは100ng/mlと言われています

3. 主な症状
  • 慢性的な疲労感、倦怠感
  • 頭痛、めまい、立ちくらみ
  • 冷え性、手足の冷たさ
  • 集中力の低下、イライラ
  • 動悸、息切れ
  • 髪が抜けやすい(鉄不足で栄養不足) 
  • 肌の乾燥やくすみ
  • 氷食症(無性に氷が食べたくなる) 
  • 爪が薄くなったり、剥がれやすくなる
    (スプーンネイル、匙状爪、二枚爪)

「何となく不調」が続くのに原因が分からない場合、隠れ貧血を疑う価値があります。

 4.鉄欠乏性貧血の患者さんが「甘いものを欲しくなる」現象がある?! 
(鉄欠乏性貧血は肥満・メタボリック症候群になりやすい、ダイエットの大敵!!)

① エネルギー不足による欲求:鉄は赤血球中のヘモグロビンの材料であり、酸素運搬に不可欠です。鉄欠乏性貧血では全身への酸素供給が低下し、筋肉や脳の代謝効率が落ちます。
その結果、体は「即効性のあるエネルギー源」を求める傾向があり、消化吸収が早く血糖値をすぐに上げられる砂糖や菓子類への欲求が高まります。
②神経伝達物質との関係:鉄はドパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなど神経伝達物質の合成にも必要です。鉄不足ではこれらの働きが乱れ
ドパミン低下 → 報酬系の働きが鈍くなり、強い「快感刺激」を砂糖に求めやすい
セロトニン低下 → 気分の落ち込みを甘味で補おうとする という心理的食欲の変化
③血糖コントロールの乱れ:鉄欠乏はインスリンの作用や糖代謝にも影響します。低血糖を起こしやすくなることがあり、その際に脳が「ブドウ糖を早く補給せよ」と信号を出すため、甘いものへの渇望が強まります。
④味覚異常と異食症との関連:鉄欠乏では「味覚異常」が生じやすく、甘味や酸味など特定の味を強く好むことがあります。また鉄欠乏の人に氷や土などを欲しがる「異食症」が見られるのも同じ延長線上にあり、体が不足している栄養や感覚刺激を特定の食物で補おうとする現象がみられます。

いずれにせよ 食行動の正常化が健康管理、ダイエットの基本であり鉄をキチント摂取することはとても重要なことです。

5.原因 
  • 月経による鉄の喪失(特に月経過多の人)
  • 妊娠・授乳期の鉄需要の増加
  • 偏食・ダイエットなどによる摂取不足
  • 消化器の病気(痔核・胃潰瘍・大腸ポリープ等)による出血
  • 激しい運動による鉄の消耗
 5. 検査方法

通常の血液検査ではフェリチン測定しない場合もあるので
検査項目にフェリチン測定があることを確認しましょう。
可能であればTIBC(総鉄結合能)トランスフェリン飽和度(TSAT)・血小板数もしましょう
(健康診断でフェリチン測定はオプションの場合が殆どです) 

  • フェリチン値の測定がカギ 隠れ貧血ではフェリチン値が低下
  • 血清鉄(Fe)も低下↓↓↓
  • 総鉄結合能(TIBC)は上昇↑↑↑
  • 血小板増加は上昇↑↑↑
  • トランスフェリン飽和度(TSAT)(20%以下)は低下↓↓↓
  • 初期段階で赤血球が小さくなり(MCV↓)
    次に含まれるヘモグロビンの量も少なくなる(MCH↓)
    そしてMCHC↓(赤血球の大きさが小さくなり、かつヘモグロビン量も減少)

 逆にフェリチン値が上昇している場合→フェリチン値が高い場合は
体内の貯蔵鉄が多くなりすぎている、また、肝障害や感染症、
悪性腫瘍、心筋梗塞などの可能性も疑われます。

 6. 対処法・治療

① 食事療法
ヘム鉄を含む食品(レバー、赤身肉、魚など)を積極的に
ビタミンCと一緒に摂ると非ヘム鉄の吸収もUP

※ヘム鉄とは:ヘム鉄は、動物性食品に含まれる鉄分で、
「ヘム」と呼ばれる有機化合物と結合した鉄のことです。
主に赤身の肉、魚、レバーなどに多く含まれています。
(ヘム鉄は非ヘム鉄より鉄としての吸収率が高い) 

   

② 鉄剤の服用
食事で摂取困難な場合
医師の指導で処方されることがあります(フェロミア・リオナなど→非ヘム鉄)
胃腸への副作用(便秘・吐き気)に注意(吐き気止めや緩下剤を併用すると良いです)

クエン酸第一ナトリウム フェロミア錠 50mg/錠 胃酸分泌に影響されることはない
クエン酸第二鉄 リオナカプセル 250mg/Cap 消化器症状が少ない
フマル酸第一鉄 フェルムカプセル→販売中止 100mg/Cap 有機酸鉄であり粘膜刺激が少ない
硫酸水和物 フェロ・グラデュメット
販売中止
105mg/錠 徐崩剤で高濃度の鉄による刺激を避ける


鉄剤が(嘔気や便秘のため)服薬困難な場合
ⅰフェジン
総投与鉄量(mg)=〔2.72(16-X)+17〕×体重(kg)(中尾式)
(X:治療前患者のHb値)総投与量から投与筒数を求め
1日当たり鉄として40~120mgを連日投与する
ⅱフェインイジェクト(Hb(ヘモグロビン・血色素)が8.0未満の方に保険適応)
鉄として500㎎ / 回・1週間に1回投与
投与方法:5分以上かけて緩徐に静注射、もしくは6分以上かけて点滴静注
上限量 :鉄として1500㎎(週1回の投与を最高3回まで)
→注意点として漏出部位周辺に皮膚の炎症及び長期にわたる色素沈着を起こすことがあります。
ⅲモノヴァー(Hb(ヘモグロビン・血色素)が8.0未満の方に保険適応)
フェジン(含糖酸化鉄)と比べ早期にヘモグロビン濃度が上昇し、投与後 12 週まで効果が持続
投与方法:2分以上かけて緩徐に静注射、もしくは15分以上かけて点滴静注
上限量:体重50kg以上の成人には、鉄として1回あたり1000mgを上限として週1回点滴静注、又は鉄として1回あたり500mgを上限として最大週2回緩徐に静注
→注意点として漏出部位周辺に皮膚の炎症及び長期にわたる色素沈着を起こすことがあります。

③サプリメントの活用
ヘム鉄タイプは吸収率が高く、胃に優しい(ただし保険適用外)、しかし値段は高め

④漢方薬の活用
108番の人参養栄湯 (にんじんようえいとう)
48番の十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
ツムラ137番・クラシエ49番の加味帰脾湯(かみきひとう)は
造血機能を高めて貧血を治すという適応のある漢方もあります、これらは保険適応薬です

7. 特に注意が必要な人
  • 月経がある女性
  • 妊娠・授乳中の女性
  • 成長期の子ども・思春期の女子
  • アスリート(持久系)
  • 慢性的な疲労を感じる人
8. まとめ
隠れ貧血は、「ヘモグロビンは正常でも体は鉄不足」という状態
気づかずに放置すると、貧血に進行するリスクも
疲労感や体調不良が続く場合はフェリチンの検査を受けるのがおすすめ
気になる方は仰ってくださいね!! 

 

 

 

 

 

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