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無差別殺傷事件などの重大事件関係者のPTSDについて 

古い資料ですが、昭和57年版犯罪白書によれば、

無差別殺傷事件(通り魔事件を含む)の発生件数は5月から9月に多発していたようです。 

別のデータでは6月 9月 10月にやや多い傾向があるようでした。

 

曜日的には月曜日が一番多かった様です。


無差別殺傷事件(通り魔事件など)の目撃者や被害に巻き込まれた人々に起こる

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、深刻な精神的影響を残すことがあります。

PTSDは(Post-Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)は
命の危険や重大なトラウマ体験をきっかけに、

精神的苦痛や不安症状が長期間続く精神疾患です。

 

 

PTSDの診断基準
【DSM-5(アメリカ精神医学会)】
以下の4群の症状が1か月以上持続し、社会生活に支障をきたすことが診断要件:

  1. 再体験(侵入症状): フラッシュバック、悪夢、強烈な記憶の再現など

  2. 回避行動: 事件を思い出す状況や場所、人、会話を避ける

  3. 認知と気分の変化: 罪悪感、無力感、感情の麻痺、他人への関心の喪失など

  4. 覚醒亢進(過覚醒): 過剰な警戒心、不眠、驚きやすさ、怒りの爆発など

 

 

【ICD-11(WHO)】

  • トラウマの明確な出来事と、それに続く再体験・回避・持続的警戒心の3主徴に焦点を当てる。

  • より簡潔で国際的な標準に沿った診断基準。

 無差別殺傷事件(通り魔事件を含む)の関係者の PTSDの発生原因として

  • 無差別殺傷事件の目撃(死亡や重傷を目の当たりにする)
  • 自身または他者への暴力・殺傷行為の遭遇
  • 避難や混乱の中での強烈な恐怖
  • メディア報道で繰り返しフラッシュバックする映像

PTSDを発症しやすい人の特徴

  • 直接の目撃者
  • 事件後の生存者
  • 遺族・近親者
  • 事件現場に居合わせたが無事だった人(生存者の罪悪感)
  • 子ども・高齢者・感受性が高い人
  • 既往歴に不安障害やうつ病がある人

高リスクな状況

  • 加害者と至近距離で接した
  • 血液・悲鳴・倒れた人などショッキングな場面を見た
  • 脅される、または身体的被害を受けた
  • 現場に長く取り残された
  • 事件後に社会的な支援が受けられなかった

具体的な症状として 

  • 再体験症状(フラッシュバック):血や叫び声の記憶、事件の夢、突然の追体験
    (映画のスクリーンの中に入っていくような感覚で出来事が実際に
    もう一度起きているかのように感じる、行動するなどただ思い出すといったことでなく、
    トラウマの時の状況に引きずり込まれるような感覚、その場に戻ったときのようなリアリティさなど) 
  • 回避行動:現場に近づけない、事件を連想させる話題を避ける
  • 認知と気分の変化:罪悪感、無力感、興味喪失、人間不信
  • 覚醒亢進:不眠、イライラ、過剰な驚き反応、警戒心の強化

 

 

PTSDの治療方法
1:PTSDのPE療法(持続エクスポージャー療法:Prolonged Exposure Therapy)

トラウマに関連する記憶や状況からの回避をやめ、
意図的に安全な状況でトラウマと向き合うことによって、
恐怖反応を弱めていく心理療法です。
PTSDに対してエビデンスが非常に強い治療法の一つです。

2:PTSDの薬物療法
現時点日本ではPTSDへの保険適応があるのは 以下の2つのみです。
パロキセチン:パキシル、パキシルCR
(抗うつ作用が強力で、PTSDの主要症状(再体験、回避、過覚醒)
に効果があるとされています。
副作用としては、吐き気、眠気、口の乾き、めまい、便秘などが
報告されています。1日1回の服用で済みます)

セルトラリン:ジェイゾロフト
(抗うつ作用と抗不安作用を併せ持ち、PTSDの症状軽減に有効とされています。
副作用としては、吐き気、眠気、口の乾き、頭痛、下痢、めまいなどが報告されています。
薬物相互作用が少なく、1日1回の服用で済みます) 

3:EMDR(眼球運動による脱感作と再処理)
眼球運動などを伴いながらトラウマ記憶を再処理。
非言語的で、トラウマを語りにくい人に適する。

4:認知処理療法(CPT)
「自分のせい」「無力だった」などの誤った認知を修正。
トラウマ体験によって形成された思考の歪みを再構成。

 

 

これから期待されているPTSDへの治療方法
VR暴露療法(Virtual Reality Exposure Therapy)
内容:バーチャル環境でトラウマ体験を再現し、安全に曝露を行う。
対象:戦争、災害、犯罪被害などリアルな再現が可能なトラウマ。
利点:セラピストが調整しやすく、患者の没入感を高める。

スマホ・アプリベースの自己治療支援
特徴:PTSDセルフモニタリング、瞑想、曝露練習、CBTサポートなど。
:PTSD Coach(米国VA開発)、Woebot、Headspaceなど。

MDMA補助療法(MDMA-Assisted Therapy)
概要:PTSD治療にMDMA(通称エクスタシー)を心理療法と併用して用いる。
効果:記憶の再処理を促進し、トラウマ記憶への恐怖反応を軽減。
研究結果:米MAPS財団の第3相試験で、2回のMDMAセッション後に67%がPTSD寛解
状況:米国で2024年にもFDA承認が見込まれる。日本では未承認・臨床研究段階。

ケタミン治療(Ketamine Infusion Therapy) 
概要:NMDA受容体拮抗薬であるケタミンを静脈注射または点鼻で投与。
効果:即効性があり、PTSDの過覚醒・抑うつ症状を数時間〜数日で改善。

オキシトシン(愛情ホルモン)の点鼻投与
作用:社会的信頼感を高め、恐怖記憶の再評価を促進。
研究段階:臨床試験では軽度のPTSD症状改善効果が報告。

現在当院でPTSDの治験を行っています。

PTSDに至る事案は人それぞれ違います。(暴力、性被害、自然災害など)
その後の人生苦しみ続けることになっている様なら
色んな治療方法を検討されるのは良いことだと思っています。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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