1:障害年金とは?
2:精神障害の障害年金を申請する上で著しい生活制限のセルフチェック10項目
3:障害年金の種類
4:精神障害の障害年金の財源
5:急増する精神障害の障害年金申請――その背景に“障害年金ビジネス”はあるのか?
障害年金とは、病気やけがによって日常生活や仕事に大きな支障が生じた場合に、生活を支えるために支給される公的年金制度です。高齢者だけを対象とした制度ではなく、一定の条件を満たせば現役世代の方でも受給することができます。
対象は身体の障害だけではありません。うつ病、双極症、統合失調症、発達障害、知的障害などの精神障害でも、病状によって日常生活や社会生活、就労に著しい制限がある場合には対象となることがあります。
うつ病、双極症、統合失調症、発達障害などの精神疾患では、病名だけではなく、日常生活や社会生活にどの程度支障が出ているか(日常生活や社会生活、就労に著しい制限)が障害年金を考えるうえで重要です。次の項目について、現在の生活を振り返ってみてください。
□ 1.食事を自分で準備したり、規則正しく食べたりすることが難しい
□ 2.入浴・着替え・身だしなみなどを一人で行うことが難しい
□ 3.掃除・洗濯・片付けなどの日常的な家事が十分にできない
□ 4.お金の管理や支払い、買い物などを一人で行うことが難しい
□ 5.薬の管理や通院を一人で続けることが難しく、家族などの援助が必要
□ 6.人との会話や対人関係が負担となり、外出や人付き合いを避けることが多い
□ 7.一人で公共交通機関を利用したり、役所・銀行などの手続きをしたりすることが難しい
□ 8.症状のため仕事を休むことが多い、短時間勤務しかできない、または仕事を続けることが難しい
□ 9.家族や周囲の人から、食事・金銭管理・通院・外出・仕事などについて継続的な援助を受けている
□ 10.一人暮らしを続けることが難しい、または家族などの支援がなければ日常生活を維持することが難しい
障害年金には主に障害基礎年金と障害厚生年金があり、
原則として、その病気で初めて医療機関を受診した「初診日」に加入していた年金制度によって種類が決まります。 障害基礎年金は1級・2級、障害厚生年金は1級・2級・3級があります。
原則として、初診日から1年6か月を経過した日が「障害認定日」となります。精神疾患のように症状が変動している場合でも、完全に病状が固定するまで待つ必要はありません。
大きく分けると、財源は次の3つです。
厚生労働省も、公的年金の主な財源は「保険料収入」と「基礎年金給付の2分の1相当の国庫負担」で、不足する場合に積立金や運用収入が活用されると説明しています。厚生労働省より
特に重要なのが、障害基礎年金です。障害基礎年金は老齢基礎年金と同じ基礎年金制度から支給されており、基礎年金部分については現在、原則として給付費の2分の1が国庫負担、つまり税金です。残りは主として年金保険料によって支えられています。2026年度予算でも「基礎年金国庫負担割合 1/2」とされています。 厚生労働省より
会社員など厚生年金加入中に初診日があった場合には、条件を満たせば障害基礎年金に加えて障害厚生年金が支給されます。厚生年金保険料は基本的に会社と本人が折半して負担しており、その厚生年金財政から障害厚生年金も支給されます。厚生労働省より
したがって、かなり簡略化して表現すると、
現役世代・企業が納める年金保険料 + 国民の税金 + 年金積立金の運用益
→ 公的年金財政
→ 老齢年金・遺族年金・障害年金
最近、精神科・心療内科の診療現場では、うつ病、双極症、統合失調症、発達障害などを理由に、障害年金を申請したいという相談が増えています。
障害年金は、病気によって日常生活や就労に大きな支障が生じた方の生活を支える、大切な社会保障制度です。一方で近年、障害年金申請を専門に扱う一部の社労士事務所などによる、いわゆる「障害年金ビジネス」も問題視されています。
※障害年金の申請手続きを社会保険労務士(社労士)に代行してもらう際の報酬相場は
着手金が0円〜3万円程度+成功報酬が年金額の2~3ヶ月分
(または初回受給額の10〜15%程度)と言われています。 2026年相場より
参考資料:①北海道大学の研究論文では、先行文献を引用して、「精神疾患の障害年金が社会保険労務士による、いわゆる『貧困ビジネス化』している実態」と明記されています。さらに、社労士が主治医に対して診断書の内容について不当な働きかけをする可能性についても問題として論じています。
②2016年8月、厚生労働省年金局は、「障害年金における社会保険労務士の適正な業務に向けて」
という文書を出し、全国社会保険労務士会連合会に対応を求めています。
その後の倫理研修資料でも、
ⅰ医師に「障害の程度をもっと重く書いてほしい」と要求する
ⅱ診断書の記載を受給に有利になるよう変更・削除するよう求める
ⅲ医師に何度も面会を求め、事実上交渉する
ⅳ「年金事務所は味方ではない」などと不安をあおって契約へ誘導する
ⅴ低額の着手金+高額成功報酬 といった事例が問題として挙げられています。
③2025年12月の山口県医師会報でこの問題が取り上げられています。
医療現場側から、
ⅰ「社労士から診断書について要求されることがある」
ⅱ「社労士は障害年金が認められると成功報酬を得ている」
ⅲ「医師は患者や社労士の希望ではなく事実に基づき診断書を書くべき」という
問題提起がなされました。
これに対する日本医師会側の回答では、「障害年金における社会保険労務士の業務の適正性が疑われる事案については、厚生労働省においても把握している」として、全国社会保険労務士会連合会に必要な要請を行っているとの認識が示されています。
医療現場で困るのは、患者さんや支援者から「2級になるように診断書を書いてください」「この項目をもっと重くしてください」と求められるケースです。
精神障害の障害年金では、食事、金銭管理、服薬、対人関係、就労などの「日常生活能力」が重要な判断材料になります。しかし医師の役割は、年金を「取らせること」でも「取らせないこと」でもありません。患者さんの実際の病状と生活状況を医学的に正確に記載することです。
もちろん、複雑な申請手続きを社労士が支援することには大きな意義がありますし、成功報酬そのものが問題なのではありません。しかし、「受給できれば報酬が得られる」という仕組みが、受給ありき・上位等級ありきの支援につながってしまえば問題です。
障害年金の財源は、国民が納める年金保険料や税金などによって支えられています。
障害年金は社労士や医療機関のためではなく、本当に支援を必要としている患者さんの生活を守るための制度です。必要な人には適切に届ける。同時に、医学的事実と制度の公平性を守る。その両方が大切だと考えています。
精神障害の障害年金では、病名だけで受給が決まるわけではありません。
食事、清潔保持、金銭管理、服薬、対人関係、外出、就労など、実際の日常生活にどの程度支障があるかが重要です。
当院では、精神神経症状の治療経過や日常生活・就労状況を医学的に評価し、必要に応じて障害年金診断書の作成に対応しています。

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